大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)152号 判決

原告 滝川一夫

原告兼滝川好子訴訟承継人 加藤フサ子

原告 滝川昭男

原告三名訴訟代理人弁護士 酒井廣幸

被告 滝川勝二

右訴訟代理人弁護士 岡本弘

右訴訟復代理人弁護士 中根正義

被告 国

右代表者法務大臣 後藤田正晴

右指定代理人 北島詔三 外三名

被告 名城興産株式会社

右代表者代表取締役 木村正夫

右訴訟代理人弁護士 片山主水

右訴訟復代理人弁護士 中山敬規

被告 佐屋町

右代表者町長 後藤勇

右訴訟代理人弁護士 野間美喜子

同 大島真人

主文

一  被告佐屋町は原告加藤フサ子に対し、金一〇万円を支払え。

二  原告加藤フサ子の被告佐屋町に対するその余の請求を棄却する。

三  原告らの被告滝川勝二、被告国及び被告名城興産株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告加藤フサ子と被告佐屋町間に生じたものについては、被告佐屋町の負担とし、その余は原告らの負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

1  被告滝川勝二(以下「勝二」という。)は、原告らに対し、別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)につき、名古屋法務局津島出張所昭和六三年五月二五日受付第五八九四号をもってされた所有権移転登記を、被告勝二の持分割合を三分の二、滝川好子(以下「好子」という。)、原告加藤フサ子(以下「フサ子」という。)、同滝川一夫及び同滝川昭男の持分割合を各一二分の一とする所有権移転登記に更正登記手続をせよ。

2  被告国は、原告らに対し、別紙物件目録1ないし8記載の各土地(以下「本件1ないし8土地」といい、他の土地も同様に省略する。)につき、1の更正登記手続を承諾せよ。

3  被告名城興産株式会社(以下「名城興産」という。)は、原告らに対し、本件8及び9土地につき、1の更正登記手続を承諾せよ。

4  被告佐屋町は、原告フサ子に対し、金三〇万円及びこれに対する平成二年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

(本理由中の書証で成立に関する記載のないものは、すべて成立に争いがないか、弁論の全趣旨により成立を認めたものである。)

本件は、

滝川捨蔵(以下「捨蔵」という。)死亡による相続を原因として被告勝二に全部の所有権移転登記が経由されている本件各土地について、捨蔵の相続人で、被告勝二の兄弟姉妹である原告らが、遺産分割協議による合意は成立していないと主張し、被告勝二に対し、それぞれ原告らの法定相続分(亡好子持分については、同人の持分の贈与を受け、訴訟承継した原告フサ子が請求)についての更正登記手続を、

本件各土地の一部に抵当権設定登記を経由している被告国及び被告名城興産に対し右更正登記手続の承諾を、亡好子に無断で同人の印鑑登録をし、印鑑登録証明書を発行し、交付を受けた被告佐屋町職員被告勝二らの不法行為につき、好子から損害(慰謝料)賠償請求権の譲渡を受けた原告フサ子が、被告佐屋町に損害賠償として三〇万円(及び遅延損害金)の支払いを

それぞれ求めたものである。

一  争いのない事実等

1  捨蔵は昭和六二年一月二二日に死亡し、妻滝川あきの(以下「あきの」という。)が二分の一、長女佐々木信子、次男被告勝二、四男原告滝川一夫、二女原告フサ子、三女好子、五男原告滝川昭男がそれぞれ一二分の一の法定相続分の割合で相続した。

2(一)  本件各土地について、被告勝二の相続を原因とする全部の所有権移転登記が経由されている。

(二)  被告国は本件1ないし8土地について抵当権設定登記を経由している。

(三)  被告名城興産は本件8及び9土地について根抵当権設定登記を経由している。

3  被告佐屋町は、佐屋町印鑑の登録及び証明に関する条例(以下「条例」という。)に基づき、印鑑登録及び証明に関する事務を行うものであり、服部兼松(以下「服部」という。)は被告佐屋町の職員で、昭和六三年五月当時佐屋町永和支所の支所長をしていた者であり、被告勝二は、被告佐屋町の職員であり、右当時、佐屋町永和支所に勤務していたものである。

昭和六三年五月一六日に被告勝二が好子の印鑑登録申請をし、服部はこの登録申請を受付け、好子に対する照会書を発し、被告勝二に届けさせた。同日好子名義の印鑑登録がなされ、同日好子名義の印鑑登録証及び印鑑登録証明書が被告勝二に交付された。

4(一)  好子は、平成二年三月一八日に、好子の死亡を条件として、本件各土地の一二分の一の持分及び被告佐屋町に対する三〇万円の損害賠償請求権を原告フサ子に書面で贈与した(〈書証番号略〉により認定)。

(二)  好子は、平成二年九月三〇日に死亡した。

二  争点

1  更正登記手続請求等について

(一) (遺産分割協議の成否)

昭和六二年五月頃までに、原告ら及び被告勝二を含む捨蔵の法定相続人七名全員の間で、本件各土地を被告勝二が、海部郡佐屋町大字大井字石池三一二番、同所三三四番、同所三三五番の各土地(以下「別件土地」という。)をあきのがそれぞれ相続する旨の遺産分割協議が口頭で成立したか。

(二) (書面による遺産分割の合意)

昭和六二年五月頃までに、あきの及び被告勝二は遺産分割協議書により、その余の捨蔵の法定相続人は特別受益者証明書により、本件各土地を勝二が、別件土地をあきのがそれぞれ相続する旨の意思表示をし、書面による遺産分割協議が成立したか。

(三) (相続持分の贈与又は放棄の有無)

原告ら及び好子は、特別受益者証明書を作成し、本件各土地についての相続による各自の共有持分ないし相続分を被告勝二のために放棄又は贈与したか。

(四) (権利濫用、信義則違反)

捨蔵の相続人間で家族会議を重ねた上特別受益者証明書を原告らが自ら作成したにもかかわらず、原告らが自らの相続持分及び好子からの譲り受け持分について権利を行使するのは、信義誠実の原則に違背し、権利濫用にあたるか。

(五) (訴訟信託)

2  被告佐屋町への損害賠償請求について

(一) 被告佐屋町の不法行為責任の有無

被告佐屋町は、条例により、印鑑登録申請があったときは、当該申請が本人の意思に基づくものであることを確認するため、当該登録申請者に対し印鑑登録照会書により照会すること等を義務づけられているのに、被告佐屋町の職員で事務担当者である服部及び被告勝二は、印鑑登録申請及び証明に関する事務取り扱いの任にあることを奇貨として、意思を通じて、好子に無断で昭和六三年五月一六日付印鑑登録申請に関する代理権授与通知書、同日付印鑑登録申請書、同日付印鑑登録回答書、同日付印鑑登録証受領書、同日付印鑑登録回答書の持参及び印鑑登録証受領に関する代理権授与通知書を偽造した上、好子に対し、条例で定められた照会手続をなさないまま同人に無断で印鑑登録手続を行い、かつ好子名義の印鑑登録証明書交付申請書も偽造した上、被告勝二に好子の印鑑登録証及び印鑑登録証明書の交付を受けさせたか否か。

(二) 好子の損害額

好子は、被告佐屋町職員の右違法行為により、真正な相続分回復のために費用と労苦を負担するに至り、その被った精神的苦痛を慰藉するには三〇万円が相当か。

第三争点に対する判断

一  争点1(一)(遺産分割協議の成否)について

証拠(〈書証番号略〉、証人大島、原告フサ子本人、被告勝二本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

昭和六二年一二月二日に捨蔵が死亡し、その葬儀が終了したころ、被告勝二から相続について話合いを求められたため、昭和六三年一月五日の三五日の法要に原告ら、被告勝二ら兄弟姉妹全員がそろった際に、あきのと好子の面倒を被告勝二がみるかどうかについて協議をしたが、その日は被告勝二から積極的な返答がなかった。好子は、夜八時ころに帰宅した。同年一月一五日にも右兄弟姉妹が集まり、相続について協議したが、あきのと好子の面倒を被告勝二がみるかどうかについての話合いは決着がつかないままであった。右話合いにおいては、好子が捨蔵の遺産を相続すると生活保護が受けられなくなる旨の指摘がなされていたため、好子は遺産を一切相続しないことを前提に協議がなされていた。同年五月一日に原告ら、被告勝二らは佐藤税理士事務所に行き、捨蔵の遺産である農地は一人の相続人が相続して二〇年営農を継続すれば、相続税の納税猶予を受けられるが、そのためには、申告期限である同年六月二日の二週間ほど前に申告の手続をしておく必要がある等の相続税の制度や手続の説明を受けた。被告勝二は、相続の話合いがなかなかつかないので、被告勝二や原告フサ子らが世話になった中学校の教師である大島を中にいれて話したいと提案し、同年五月七日ころ大島出席の下に原告ら兄弟姉妹全員が亡捨蔵の家に集まり協議をした。その席で、大島は、捨蔵の遺産は実質的に長男であり滝川家の本家となる被告勝二が全部相続し、他の相続人は相続を放棄し、あきのは被告勝二と生活し、好子の面倒は、まずあきのが、次に被告勝二を中心として兄弟姉妹がみるべきである旨を骨子とし、大島の相続の考え方について記載した「滝川家遺産相続に関する覚」と題する書面を用意して原告らに提案したが、原告フサ子が、あきのに滝川家の本宅、その宅地、隣接する畑を相続させるべきである旨要求し、これに対し、被告勝二が「俺達に家を出て行けということか。」と言って反発したため、兄弟姉妹間で合意ができないまま話合いは終わった。同年五月一五日に再度大島出席の下に原告ら兄弟姉妹で協議し、結局、原告フサ子の要求を入れて、あきのは本宅と別件土地を相続し、その他の農地は被告勝二が相続し、他の兄弟は相続を放棄することで合意した。その際、被告勝二は、あきのの面倒をみることについては承諾したが、好子については、大島らから、被告勝二の負担で好子の家を建て、被告勝二が好子の面倒をみるように提案されたものの、被告勝二は黙ったままで、結局返答をせず、そのまま話合いは終了した。原告ら他の兄弟姉妹は、兄弟姉妹の中で長男的な立場にある被告勝二が当然好子の面倒をみると理解していた。好子は右二回の話合いに出席していたが、特に意見は述べず、いずれも午後八時ころには帰宅した。右五月一五日の話合いの際、被告勝二は、用意していた民法九〇三条二項による証明書の用紙を原告ら兄弟姉妹に配り、記載させ、翌日回収した。服部は、被告勝二に頼まれ好子名義の九〇三条二項による証明書(偽造文書として提出されている〈書証番号略〉)を記載して被告勝二に渡した。右五月一五日の話合いの際に、相続税の納税猶予を受けるため原告らが印鑑登録証明書を用意することになったため、原告フサ子らは、同月一六日に名古屋市守山区役所で印鑑登録証明書の交付を受け、被告勝二に渡した。

以上の事実が認められる。

原告フサ子の供述中には、好子は難しい話をすると発作が起きるため、相続の話合いのときは夜八時には帰っていたので、好子には遺産分割の内容は正確には伝わっていない、好子の発言は回りの兄弟が抑制したかもしれない、好子は五月一五日の話合いには出席していない、平成元年八月一五日に好子が調停を申し立てた帰りに、好子が「私の相続はどうなっているの。」と聞いたので、自己に相続分がないことを好子は知らなかったと思う旨の供述部分があり、また、証拠(〈書証番号略〉)中には、遺産の全部が自分(好子)の知らないうちに兄被告勝二と母あきのの名義になっていると聞いてびっくりした旨の記載部分がある。

しかしながら、前記認定によれば、好子は兄弟姉妹で遺産分割の協議をした際午後八時ころまでは話合いの場にいたこと、遺産分割についての右協議は、被告勝二が不動産全部を相続するのか、それともあきのにも本宅と別件土地を相続させるのかということで、被告勝二と原告フサ子ら他の兄弟姉妹との間で意見の対立があり、さらに、遺産分割に関連し、今後あきのや好子の面倒を誰がみていくのかについて、遺産の全部又は大半を相続することになる被告勝二が当然面倒をみるべきであると主張する原告フサ子ら他の兄弟姉妹と、それを了承しない被告勝二との間で対立があったため、継続されていたものであり、結局、遺産分割については、相続税納税猶予を受けるための申告期限が間近に迫っていたため、原告フサ子らの意見を入れ、前記のとおり本宅と別件土地はあきのが、本件各土地は被告勝二がそれぞれ相続することで兄弟姉妹全員が合意し、相続税納税猶予を受けるため申告の手続きをとることになったこと、その間、好子から、自分も遺産がほしい旨の意向、あるいは、原告らや被告勝二が主張していた提案とは異なる内容の遺産分割をするべきだといった協議に異論を唱える見解は一切示されなかったことが認められ、また、証拠(〈書証番号略〉(申立て事情欄の記載は、原告フサ子本人によれば、同人が記載したものと認められる。))によれば、好子は、被告勝二が自分の面倒を十分みないことを不満として、平成元年八月一五日に被告勝二を相手方として兄弟関係調整の調停を申し立てたが、その申立ての実情として、「父親が死亡遺産相続の際申立人の相続分を相手方が申立人の面倒を見るとの話し合いで相手方に相続させたところ全くしらん顔で現在に至っている」旨を原告フサ子に書かせていたことが認められ、右調停において、遺産分割は自分は知らないから無効である旨は一切記載させていないのであるから、好子自身も、他の兄弟姉妹同様、相続財産は被告勝二とあきのが相続し、自分は相続財産を取得しないことについて異議なく了承していたものと推認するのが相当であるから、原告フサ子の前記各供述部分はにわかに信用できない。

したがって、後記認定のとおり、好子名義の民法九〇三条二項の証明書及び好子の印鑑登録証明書は、それぞれ作成の際好子の承諾を得て作成されたものではないことが認められるものの、捨蔵の遺産である本件各土地を被告勝二に、別件土地をあきのにそれぞれ相続させることについて好子は承諾していたものと推認するのが相当であるから、原告ら兄弟姉妹が遺産を相続しない旨の意思表示が有効になされた同年五月一五日には前記内容の遺産分割をすることで法定相続人全員が合意したものと認めるのが相当である。

よって、被告勝二ら主張の遺産分割協議の成立が認められる。

二  被告佐屋町に対する損害賠償請求について

1  争点2(一)について

証拠(〈書証番号略〉、証人服部)によれば、次の事実が認められる。

服部は、佐屋町永和支所長をしていた昭和六三年五月一六日に、佐屋町職員で、永和支所の用務員として書類の配達等にも従事していた被告勝二から、妹である好子の印鑑登録証明が今日中に欲しいが、妹が病気で印鑑登録証明書を取りに来ることができず、困っている旨の相談を受けたので、代理人でも印鑑登録ができ、印鑑登録証明書ももらえる旨助言し、被告勝二に代理権授与通知書の用紙を渡した。すると、被告勝二は、服部に対し、好子は頭がおかしいので、代わりに書いてくれないかと懇請したので、服部は、代理権授与通知書に自ら好子名を記載し、被告勝二に渡すと、同人が一五分後に書類を持参して戻ってきたので、服部は、好子名下の印鑑登録申請書を代理人欄も含めすべて記載し、被告勝二が押捺し、印鑑登録の受付を行った。そして、服部は、右申請が代理人による印鑑登録申請であるため、本人である好子への印鑑登録照会書と同回答書を封筒に入れ、被告勝二に渡したところ、同人は、年後三時ころ何の記載もない同回答書を持参し、服部に記載するよう懇請したため、服部は、被告勝二を信頼して好子名を記載し、さらに代理権授与通知書にも好子の住所氏名を記載したところ、被告勝二は、その場で右各書類に押捺した。そして、被告勝二から好子の印鑑登録証明書が欲しい旨言われたので、服部は、印鑑登録証明書交付申請書に好子及び被告勝二の住所氏名等を記載し、被告勝二が右に押捺し、服部は、好子の印鑑登録証明書を被告勝二に交付した。服部は、同日、被告勝二から頼まれ、「民法第九百参条第弐項による証明書」と題する書面に好子名を記載した。

以上の事実が認められる。

この点に関し、被告勝二の供述中には、印鑑登録申請の一連の記載を服部に頼んだことは一切なく、右書類に押捺したこともない、右書類は服部が滝川一夫らに頼まれ偽造したと思う旨の供述部分があるが、前記認定のとおり、被告勝二は、農地の相続税納税猶予を受けるため、原告ら他の相続人の遺産相続放棄書及び印鑑登録証明書を同年六月二日までに具備する必要があったが、同年五月当時好子の印鑑登録がなされていなかったことが認められ、被告勝二が好子の印鑑登録証明書等を必要としていた右状況に照らせば、証人服部の証言に反する被告勝二の右供述部分はにわかに信用できない。

以上の事実によれば、被告勝二は、印鑑登録照会書及び同回答書を送付する職にあったことを利用し、好子に無断で、好子の印鑑登録申請及び印鑑登録証明書交付申請を行い、同証明書の交付を受けたものと推認でき、服部は、被告勝二によりなされた好子名下の印鑑登録申請につき、代理権授与書類がなかったにもかかわらず、代理権授与通知書を自ら作成してこれを受け付けた上、印鑑登録を代理人が行う際、本人に右申請の事実を照会し、回答書を持参させる等して申請が本人の意思に基づくものであることを確認するべきであった(条例第四条一項、二項)にもかかわらず、好子に対する印鑑登録照会書を代理人と称する被告勝二自身に届けさせ、被告勝二が持参した印鑑登録回答書に好子が確認した旨の記載が何らなされておらず、好子の申請の意思が確認されなかったにもかかわらず、何らの記載もない同回答書に服部自ら好子名を記載して同回答書を作成し、好子の印鑑登録を行い、もって被告勝二が好子に無断で好子名下の印鑑登録を行うことを幇助し、さらに被告勝二が好子の代理人である旨服部自らが記載した印鑑登録証明交付申請書に基づき印鑑登録証明書を作成し、被告勝二に交付したことが認められ、右服部の行為は条例第四条一項、二項等に違反するもので、少なくとも重大な過失があるというべきであるから、服部及び被告勝二の右各行為は、公共団体の職員がその職務を行うについて違法に他人に損害を加えた行為に該当するもので、右職員の不法行為について被告佐屋町は、損害賠償の責任(国家賠償法一条一項)を免れないというべきである。

2  争点2(二)(好子の損害)について

好子は、服部及び被告勝二によって無断で印鑑登録をされた上、印鑑登録証明書の交付をされたもので、右無断でなされた印鑑登録による印鑑登録証明書を付された好子名義の民法九〇三条二項による相続分不存在証明書(偽造文書として提出されている〈書証番号略〉)は、それぞれ好子の承諾を得ずに作成されたものであることが推認されるものの、前記認定のとおり、本件各土地を被告勝二に、別件土地をあきのにそれぞれ相続させる遺産分割案について好子は承諾していたものであると認められるから、被告勝二らによる右不法行為によって好子が被ったと認められる精神的損害は、金一〇万円を越えるものではないというべきである。

三  結論

以上によれば、原告らの被告勝二、被告国及び被告名城興産に対する更正登記手続請求等は、抗弁事実(遺産分割の合意)が認められるから、理由がなく、原告フサ子の被告佐屋町に対する損害賠償請求は、金一〇万円の限度で理由があり、その余については理由がない。

(裁判官 生野考司)

別紙 物件目録

1 海部郡佐屋町大字大井字石池一八五番

畑二七六平方メートル

2 右同所 二〇六番

田 三〇八平方メートル

3 右同所 三三八番

田 六四八平方メートル

4 右同所 七川南六一番

畑一八六平方メートル

5 右同所 五六番

田 一三二平方メートル

6 右同所 大字善太新田字七草平一四〇番一

田 二九六一平方メートル

7 右同所 一四〇番二

田 六三一平方メートル

8 右同所 大字大井字七川北八一番

田 六四六平方メートル

9 右同所 七九番

田 九一二平方メートル

10 右同所 大字善太新田字七草平一三二番

田 二三平方メートル

11 右同所 大字大井字七川南四〇番

田 一〇平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例